車検が高いと言わないで!高額になる理由と悪しき風習【後編】

ちょっと間が空いてしまいましたね。前回は車検が高いと言われる理由を紹介しましたが、今回はその続き。高くなった車検費用を必要以上に値切ってしまうと、どのようになってしまうのか。実際にあった例を交えて紹介していきます。

整備をしなくても車検が通るってどういうこと?

さて、車検はあくまで特定の7項目が正常に機能しているかどうかの検査であって、壊れそうな部品を点検するわけではないことは前回ご紹介しましたね。

つまり、極端な話をすれば部品が痛んでいたとしても、検査機がOKを出せば車検には通ってしまうわけです。

分かりやすい例で言えばブレーキの制動検査。ブレーキパッドの残溝に関わらずブレーキさえ効いてしまえば、制動検査の項目は合格が出ます。ブレーキパッドの厚みは関係ありません。

そうならないために本来は法定点検を行う

これでは車検本来の意味である“安全に走れる状態”が維持できませんよね?そこで重要になってくるのが法定点検です。車検ステッカーとは別に張られる丸いシールのことですね。

法定点検は12か月と24か月に行う定期点検で、車検と同時に行う24か月点検ではブレーキパッド残量はもちろん、オイル漏れやハンドルの操作具合など全部で56項目を点検します。

ところが、法定点検は努力義務であり、法定点検が未実施であったとしても車検には合格します。点検をしない分、費用は抑えられますが、まったく整備をしないので、車検後すぐに車が壊れたとしても文句は言えないですよね。

とはいえ、そうなってしまうのには少なからず工場にも責任はある

ここまで読んでいただいたなら車検は安く済ませることよりもきちんと整備をした方が良いというのは分かっていただけたかと思います。

ですが、この“きちんとした整備ってどれくらいの整備?”っていうのが問題です。例えば、

“車検のチラシでは5万円と書いてあったにもかかわらず、請求額が10万円でした”

と言われたらあなたはすぐに納得するでしょうか?恐らく少々疑問に思ったとしても「整備工場が言ってるんだから当たり前だろう」と作業料金を鵜呑みにするはずです。(5万円で車検が通るのはなかなかないケースですが…)

これが問題なんです。本来、車検整備に関わらす、特定整備(旧・分解整備)を行うような事業者は、作業見積もりの提示と整備内容の説明が求められます。

事前見積もりをせずに高額な修理を行ったり、お客様の同意や理解なしに作業を進めてはいけないというルールがあります。

仮に車検費用が高額であったとしてもきちんと納得のいく説明があれば、それは正規の料金です。しかし、具体的な説明もないまま強引に高額な車検を進めてくるような工場は気を付けたほうがいいでしょう。

ただ残念なことに、そこまで丁寧に作業説明をするような工場は少なくなっています。

「昔からこうやっているから」

「プロが見てるんだから素人は口をだすな。」

そんな時代遅れな悪しき風習がいまだに残っている整備工場では作業は依頼しないのが一番です。

あまり整備してこなかった車たち

さて、当社では車検を実施する際にはまず過去の修理履歴である分解整備点検記録簿の確認から始めていきます。走行距離が少なく、日常的にメンテナンスされている車両であれば法定点検のみを実施し、車検を実施します。車両によっては出張点検のみで問題なく車検に合格する車もあります。

ところが、なかには日常点検すらされておらず、メンテナンスもロクにしていない車もあります。ここからは高額修理になるケースが多い事例の整備内容を紹介します。

ブレーキパッドは減っていないのに

まずはコチラ。ブレーキに関する整備です。ぱっと見はディスクローターもブレーキパッドも正常に見えますよね?

ところが裏側はこんな感じ。

外周にサビが進行し、ブレーキパッドのあたり面が正常の1/3ほどしかありません。(正常な部分は銀色のところ)これではブレーキパッドの摩耗が早まったり、ブレーキを踏んだ時に嫌な振動が発生する可能性があります。

お客様には事情を説明し、ブレーキパッドとディスクローターを交換いたしました。

サスペンションのダストブーツ

こちらはサスペンション本体であるダンパーをゴミや水分から守るダストブーツです。正式名称はコイルスプリングインシュレーター。

経年劣化によりこのブーツがちぎれてしまうと、ゴミが付着してはいけない部分が露出してしまい、サスペンションの寿命を縮めてしまいます。

正直、破れていても車検には通りますが、車を長持ちさせたいのであれば交換した方がいいでしょう。

車検が高額になったら遠慮せずに内訳を説明してもらおう!下手な値引き交渉はオススメしません

どうしても高額な車検代を安く済ませたい気持ちは分かります。ですが、消耗品の塊といってもいい自動車を整備するとなるとそれなりの費用は掛かります。

もし、見積もり金額に納得がいかないのであれば内訳を詳しく聞いてみましょう。それでも納得がいかないのであればよその工場で相見積もりを取るのもいいでしょう。

ただ、やってはいけないのが過度な値引き交渉。出てきた見積もりに対して要・不要の判断をあなたがしてしまうと、工場は手抜きをせざるを得ない場合があります。

もちろん、多少のサービスは交渉してもいいかもしれません。ですが数万円単位で値切るような交渉は誰も得をしません。

車に乗るということはある程度の維持費を覚悟するものです。安物買いの銭失いにならないよう、気を付けてくださいね。

車検が高いと言わないで!高額になる理由と悪しき風習【前編】

自動車に乗っていると必ず受けないといけない車検。2年に1度(貨物なら1年に1度)とはいえ、まとまった出費がかかるのは中々頭を悩ますことでしょう。

そんな心情も相まってか、車検シーズンが近くなると某SNSでは、“できれば車検は安い方が良い!”であったり“軽自動車で10万円を超える車検はぼったくられてる!”なんてコメントも多く見受けられます。

確かに、車検の費用は明細を見てもなんだかわかりにくいですし、本当に全部の整備が必要であるかどうかは疑問な面はあります。

ですが一つ、メカニックの視点で言わせてもらうと“普段定期点検や整備をしていないならあまり車検代はケチらないで”と声に出して言いたいところ。

特に雪国で走る車は雪が降らない地域の車に比べて痛みやすく、修理が高額になるケースはよくあります。

そこで今回はどうして車検が高額になってしまうのか、そして高額整備を拒み続けた車の末路について書いていきましょう。

そもそもなんで車検って高額なの?

まずは車検の費用構成について改めて確認しましょう。車検は点検整備料金の他に、法定費用というものが掛かります。

法定費用とは自賠責保険、自動車重量税、検査手数料といった車検に絶対必要なお金のことで、この金額は全国一律です。

例えば、1トン以上1.5トン未満の5ナンバー普通車(シエンタなどのミドルクラス車)の法定費用は次のようになります。

  • 重量税:¥24,600
  • 自賠責保険料(24か月):¥17,650
  • 検査手数料:¥2,200

これだけで既に約4万5千円かかっています。

これに車検基本料や点検料、整備代金を加えたものが車検代として請求されます。

基本料や整備代金は店舗や車両状況によって変動しますが、車検基本料の相場は一般整備工場で概ね2~3万円程度。ディーラーだともう少し高くなる場合があります。

さて、ここまでで5ナンバーサイズの普通車の車検代金は、おおよそ6万5千円から7万5千円ほどかかっています。整備代金はほぼ含んでいないにも関わらず、です。

ここにオイル交換やブレーキパッド交換を含めれば、あっという間に10万円は超えてしまいます。

あまりに安い車検費用はほぼ整備をしない検査メニュー

つまり、車検費用で10万円もかかった!とはいえ、ミドルクラスの車両ならその内訳の半分が税金であり、お店の収益にはなりません。ではどうやってお店は利益を出すかといえば、整備費用で儲けるしかないわけです。

ですが、最近の自動車業界は不祥事が大々的に報道されたこともあって、車検代金が高いとすぐに不正を疑われてしまいます。特に小さな整備工場さんなんかはSNSでの評判を恐れて車検代金をなるべく安くするところもあるようです。

そうなるとどうなるか。当然車検にかかる費用を抑えるために整備は極力行わず、基本料金だけで車検を通して実施台数を稼ぐしか儲ける方法がなくなるわけです。

でもこれは決して車屋さんが悪いわけではなくて、ユーザーが安さを求めた結果、“車検をクリアするための点検だけ”という作業メニューになっただけの話。そのあとすぐ車がトラブルを起こしたとしてもそれは車屋さんの責任ではありません。(厳密にはそのような状態で車検を請け負う車屋さんに非がないわけではないですがあまりに値切られたら請け負ってしまう工場があるのが現状です。)

車検を通したばっかりで車が壊れるなんて整備不良だ!

すぐ壊れそうな状態で車検を通すなんておかしいじゃないか!と、いわれそうですが、ごもっともです。そんなおかしい状況でも実は車検は通そうと思えば合法に通せてしまうんです。

誤解を恐れずに言うなら、車検はあくまで車が安全に走行できるかどうかの点検であって不具合個所を見つけるためのものではないのです。

だから整備をしないで車検を通した場合、車検後にすぐ車が不調になる可能性は十分にあります。

ではここで車検で点検する項目をご紹介しておきましょう。車検でみられる項目は次の7項目。

  • 外観検査:ヘッドライトやウインカーの電球切れ。タイヤのはみだしなどを点検
  • 排気ガス検査:排気ガスがキレイに浄化されているか検査
  • サイドスリップ検査:タイヤが4輪ともまっすぐ取り付けられているか検査
  • ヘッドライト検査:ヘッドライトの光量と照らす向きを検査
  • 制動検査:ブレーキとサイドブレーキの効き具合を検査
  • スピードメーター検査:スピードメーターの誤差を検査
  • 下回り検査:グリスの漏れやマフラーの穴あき、ハンドルなどのガタを検査

たったこれだけしか点検しません。はっきり言って新車から5万キロ以内の車ならほぼ何もしなくても車検に落ちることはないんです。もちろん、事故を起こしていたり、低走行だけど年式が古い車なら例外はありますが、ほぼ点検と調整で事足りてしまうのが実態です。

じゃあなんで車検で整備が必要なの?ちゃんと整備しないとどうなるの?

という話になるのですが、今回はここまで。続きは後編で書いていきましょう。