― 事故の真実を記録する“クルマのブラックボックス”
「事故のとき、本当にブレーキを踏んでいたのか?」「スピードは出ていたのか?」――交通事故の原因を正確に把握することは、安全運転の啓発や責任の明確化にとって非常に重要です。
そんなとき、客観的な証拠として注目されているのが、EDR(Event Data Recorder)という装置です。
日本では2017年より、自動車にEDRの搭載が法規化されました。そのような背景も相まって、近頃ではEDR調査に関するお問い合わせが増えてきています。
そこで今回はEDRってどんな装置?という話題を紹介していきます。
EDRとは?
EDRとは、「イベント・データ・レコーダー(Event Data Recorder)」の略で、自動車の事故前後の運転データを記録する装置です。
航空機における「ブラックボックス」のように、EDRは衝突などの重大な“イベント”が発生した際に、車両の挙動や運転操作の履歴を保存します。

主に自動車の前方に衝撃が伝わると記録され、後方衝突においては記録されにくいケースが良く見られます。
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EDRが記録するデータ
EDRが記録する情報は車種やメーカーにより多少異なりますが、主に以下のような項目が対象です:
記録項目 | 内容 |
---|---|
車速 | 衝突直前の速度や変化の推移 |
ブレーキ操作 | ブレーキの有無やタイミング |
アクセル操作 | 踏み込み具合や解除時刻 |
シートベルトの着用有無 | 乗員の安全装備使用状況 |
エアバッグ展開情報 | 展開の有無、タイミング |
ステアリング操作 | 操舵角やハンドル操作の記録 |
衝突検出時刻 | 衝突の発生タイミングと力の方向 |
こうしたデータは、衝突の5秒前から直後までの短い時間を対象に保存されるのが一般的です。

EDRの役割と活用事
EDRには様々な活用方法があります。その中でも事故の究明や、損害保険の現場ではこのデータが多く活用されています。
事故原因の解明
事故当時の運転者の証言があいまいだったり、相手との主張が食い違ったりするケースは少なくありません。
EDRは、当事者の記憶や証言に頼らず、客観的な事実を確認する手段として役立ちます。
例:
- 実際にはブレーキが踏まれていなかった
- 法定速度を大きく超えていた
- 衝突時にシートベルトが未着用だった
保険・法的手続きの補助資料
損害賠償や過失割合を判断する材料として、保険会社や弁護士がEDRデータを活用することもあります。
近年では、民事・刑事裁判においてEDRデータが証拠として提出されるケースも増加しています。
中古車査定の証明書としての活用
最近では販売されている中古車の衝突歴の有無を証明する資料としてもEDRの活用が期待されています。

特に事故車の場合、修復のレベルを判断する材料ともなりうるため、板金工場などでも認知が広がっているのが現状です。
プライバシーと法的な扱い
EDRに記録された情報は個人の運転行動に関わるデータであるため、プライバシーの観点から慎重な取り扱いが求められます。特にEDR先進国のアメリカではユーザーの同意なしにデータを抽出することは出来ません。
日本においてはまだ厳密にEDRがプライバシー保護に与える影響を論じられてはいませんが、取り扱いには十分な注意が必要です。
ドライブレコーダーとの違い
EDRと混同されがちなのが「ドライブレコーダー(ドラレコ)」ですが、両者には明確な違いがあります。
項目 | EDR | ドライブレコーダー |
---|---|---|
記録対象 | 車両制御データ | 車外・車内の映像と音声 |
トリガー | 衝突や急加減速などのイベント発生時 | 常時録画+衝撃感知録画 |
利用目的 | 事故解析・技術開発・法的証拠 | 事故状況の可視化・防犯 |
記録者の意思 | 原則自動 | 設定により任意録画も可 |
まとめ:EDRは「真実を語る装置」
EDRは、交通事故の原因を客観的に記録する信頼性の高い装置です。映像とは異なる“車両の内側の情報”を補完することで、より正確な事故解析や責任の所在の明確化、安全性の向上に寄与しています。
これからのモビリティ社会では、EDRのようなデータに基づいた安全・安心の仕組みが、ますます重要になっていくでしょう。