どれだけパーツを変えても直らない!迷宮入りした故障は基本から見直すべし

止まるほどではないけれど、何だかエンジンが調子悪い。

時々エンジンの吹けが悪い。

こういった再現性のない故障、もしくはチェックランプが光らない故障は修理工場に持っていっても中々原因が特定できないことはよくあります。

こんな時、よくある対応が“とりあえず部品を変えておきましょうか”といった場当たり的な対応。もちろんそれが悪いとは言いませんし、経験のあるメカニックさんならそれで解決することも良くあります。

しかし、車齢が年々伸びている昨今。それだけでは解決できない事象が増えてきているのも事実です。今回は故障コードが出ないスズキスイフトのエンジン不調を紹介します。

事の発端は低回転域でのばらつき

今回の故障修理の車はスズキスイフト。ZC11型で黄色いスズキスポーツが流行ったあれです。最終モデルが2010年ですからゆうに14年以上経過している車ですね。

点火系を除けば比較的丈夫なM13A型エンジンを搭載し、今も現役で見かける名車です。(根強いファンもいます)

そんなZC11型スイフトが時々アイドリングが以上に下がったり、加速しないという症状を訴え入庫。いつもの点火系トラブルだろうとタカをくくって点検に入りました。

既に交換されていた点火系部品

とりあえずプラグから点検するか~とボンネットを開けてみると、異様にキレイなイグニッションコイルが。待てよと思い整備記録を確認してみると、どうやら1万キロ前に点火系一式交換済み。この時点で読みは大きく外れてしまいます。

オーナーに確認を取って詳しくチェック

点火系と決めつけていたばっかりにオーナーを待たせてしまっていたため、事情を説明。後日改めて入庫してもらい本格的な点検へと移る運びとなりました。

オーナー様が快諾してくれたから良かったもののこれは完全に私の判断ミスと反省。

診断機を繋いで詳細チェック

とりあえず、点火系の不調が無かったので診断機を繋いでダイアグチェック。当然エラーコードはなし。失火カウントでも拾っていればと思ったのですが残念ながら点火系は正常のようでした。

しかし、ここからが現代の故障診断。データモニターを開いてエンジンの状態を数字で見ていきます。正直ここができないと今の車の故障診断は難しいのが実情です。

簡易診断機を繋いでダイアグコードを読み取るだけではもはや原因の究明ができません。

データモニターには衝撃の補正値-20%

車を完全に暖気して早速状態をチェック。診断機を繋いだまま車を走らせてデータを拾っていきます。ここで症状が出ると話が早かったのですが、残念ながら症状は再現できませんでした。

試走からかえってくるとなんだか排気ガスが臭い。しばらく嗅いでない匂いだけれど、近も刺激的な花火臭は紛れもない“触ストフレーバー”もしやと思いO2センサーを確認すると。

フロントとリアのO2センサーの値に差がほぼない。燃料はめちゃめちゃ濃い状態と判断されている。(O2センサーの値が1に近づくほど排気ガス中の燃料が多いと判断。通常アイドリング付近では0.3~0.5%程度。リアO2はほぼ0%が正常)アクセル開度から分かるように、ほとんどアイドリングの状態でこれはおかしい。しかも触媒の上流と下流でO2の値が変化しないということは…

当然、車は燃料が多く噴射されていると認識しているので、燃料補正を減らす方向へ最大20%近く調整している。アイドリングでも約8.5%の補正だ。

この状態でエンジンをふかせば一時的にガス欠のような症状を起こして調子が悪くなるのも無理はありません。しかも絶妙に車が調子悪くなるかどうかギリギリの数値。症状の再現性が低いのも納得です。

見事な触媒割れ

強烈な花火臭。触媒が機能していないかのようなO2の値。ということで触媒を外してみると。

見事に触媒が割れています。これではエンジンが正しく機能しません。

車の触媒は排気ガス中に含まれるHCなどの有毒物質を取り除く役割があります。その役割が正しく機能しているかどうかをO2センサーで判断し、エンジンにフィードバック。

触媒の浄化性能が追い付いていなければガソリンの割合を減らし、逆に減らし過ぎた場合は増量し、エンジンのパワーを効果的に発揮できるように調整しています。

つまり、今回のケースでは触媒の不良により、排気ガスの浄化が行われず、車が燃料の噴射を抑制。過度に燃料を減らした結果点火不良を起こし、エンジンの不調が起きるという結論でした。

ここまで分かれば修理は簡単。触媒を交換するだけです。触媒には高価な金属が使われているので新品は非常に高額。ということで今回は中古部品にて対応。無事正常値に戻りましたので一旦様子を見てもらうべく、オーナーさんへお返ししました。

データモニターは車の状態を読み取る大事なサイン

今回のケースは故障コードが見つからない、隠れた故障でした。最近の車は大量のセンサーと高性能なコンピュータ制御によって、かなりの不調を抱えた状態でも何となく走ってしまう車が増えてきました。

そのため、なかなか不調の原因が掴めず、大量の部品を交換したけれど結局完治しないケースも多々あります。

また、そういった車の多くは過走行であったり、車齢が古かったりして“そんなもんです”と片づけられることも少なくありません。

しかし、実際には点検してみると単純な故障ケースだったり、データモニターの見落としが原因で見当ちがいな修理をしていることも多くあります。

ですがそれは作業をした整備士だけの責任ではありません。点検に費用を払いたがらないオーナーさんに責任がある場合もあります。

今回のケースではオーナーさんの希望で詳細点検をした結果故障原因が分かりました。修理代には点検料も含まれています。

しかし、中には明細をみて、“点検費用が発生するのはおかしい”と訴えてくる方がいらっしゃるのも事実です。そういったお客様のニーズをかなえるには点検時間を短縮し、経験側で簡単部品交換で対応してしまうのもやむを得ないでしょう。

何かと話題の整備業界。適正な料金で適正なサービスを提供できる環境でありたいですね。

【岡山】自動車衝突実験に参加してきました【EDR】

11月25日~11月27日にかけて、岡山で行われた一般社団法人 車載データ解析協会(CDRA)が主宰する自動車衝突実験に参加してきました。

こちらの実験、近年事故の調査で活用され始めているEDRデータの記録が、どのような状況下で記録されるのか?というテーマを、実車を用いて調べるという内容です。

今後のEDRの活用につながる有意義な実験結果を大まかにまとめたレポートとなっておりますので、ご興味がある方はぜひご覧ください。

EDRを使った衝突実験とは?

今回の衝突実験はEDRの記録がどのタイミングで行われるのか?というテーマで行われました。EDR(イベントデータレコーダー)とは車に何らかの衝撃が加わった際に、その時の車両状態(速度、ブレーキ、ハンドル操作の有無など)を記録したデータのことを言います。

このEDRは主に交通事故時のデータを記録する装置ですが、条件によっては事故以外の場面でも記録が残るため、事故の解析に役立つ有用なツールとして周知され始めています。

一見すると交通事故当時の車両状態が分かるEDRは、事故調査において非常に有用である反面、“フレームそのものに衝撃が加わらないと記録されない”という弱点がありました。

しかしながら、フレームにダメージがいかない場合でもEDRが記録されるケースも確認されており、今回の実験では“どのような衝撃を加えるとEDRが記録されるのか?”という疑問を解決することをテーマに検証を進めていきました。

衝突実験の内容

実験の内容は次の4ケース。実験全体では5つのケースを検証しましたが、その中でも重要なデータがとれた4ケースの実験内容と結果を簡潔にまとめておきます。

※注 今回の実験の結果はあくまで実験に使用した車両の場合の結果です。同一の事例であっても対象となる車両、路面状況、その他外的要因などによって結果が変化する場合があります。あくまで参考情報としてご覧ください。

ケース1:前方衝突(フルラップ)

実験の条件
  • 前方に停止している車両への追突を想定
  • 速度をEDRが記録されるまで上げて実施
  • 実験の結果
  • 停車車両では時速30㎞以上でEDRが記録されることを確認
  • ケース1では停止車両への追突事故を想定した実験です。時速10㎞から実施し、衝突車両と被衝突車両双方にEDRが記録されるまで実施しました。

    衝突側の車両。複数回の実験で全部が大きく破損している

    この実験では、時速10㎞で衝突車両に記録が入るものの、被衝突車両へは時速約30㎞の衝突で初めてEDRが記録されました。時速30㎞といえば今年議論された“生活道路の法定速度”と同じスピードです。

    つまり、徐行よりもかなり速い速度で追突されない限り、被衝突車両には記録が残らないという結果になりました。これは非常に興味深い記録で、徐行程度で追突された場合、追突された側の車両にはEDRが記録されていないケースがあることが示唆されました。

    ケース2:前方衝突(オフセット)

    実験の条件
  • 停止している車両へオフセットした状態で衝突
  • オフセットのレベルを変更して複数回実施
  • 衝突速度はケース1と同様
  • 実験の結果
  • オフセット衝突の影響はフルラップの記録に対して軽微だった
  • 次のケースは被衝突車両にオフセットさせて衝突させる実験です。追突を避けようとしたが間に合わなかった、というケースをイメージしてもらえると分かりやすいでしょう。

    こちらはオフセットしている分、力が分散するかと思われましたが、ケース1と同様の速度で追突した結果、衝突車、被衝突車両双方にEDRが記録されました。

    同一方向の力の入力であればオフセットの影響は記録においては軽微だということが分かります。

    ケース3:側面衝突(入射角あり)

    実験の条件
  • 被衝突車両の左側方へ衝突
  • 入射角は45°以上
  • 衝突速度は被衝突車両にEDRが記録されるまで加速
  • 実験の結果
  • 入射角がある衝突では被衝突車両への力が分散され、EDRが記録されないケースを確認
  • ケース3は被衝突車両の左側方へ入射角を付けて衝突させる実験です。シチュエーションとしては左折中の前方車両へ追突してしまったようなケースです。

    こちらの実験は、結論から言えば被衝突車両へEDRは記録されませんでした。これは恐らく被衝突車両が側面からの衝突により回転し、力が分散されてしまったことが原因と考えられます。

    左リアタイヤ付近へ斜めに衝突した後の被衝突車両。外板パネルが凹んでいるものの、骨格はしっかり維持されている

    というのも、衝突車両に記録されたEDRを解析すると、衝突速度を上げているにも関わらず、入射角によっては衝突時の衝撃が小さくなっていることが分かりました。これは被衝突車両が力を逃がしてしまっている証拠です。

    被衝突車両への入力が大きくなるにつれて回転力も大きくなり、その結果衝撃が緩和されたと考えられるでしょう。

    ケース4:自転車への衝突

    実験の条件
  • 一定速度で直進、自転車へ衝突
  • 実験の結果
  • ポップアップフードとAEBの正常動作を確認
  • 最後はボンネットのポップアップを作動させる実験です。ポップアップとは、歩行者と接触した際、ボンネットを跳ね上げて、フロントガラスに頭を打ち付けないようにする安全装置の一種です。

    ポップアップの展開を確認。車両解析を行っている最中

    ケース4ではダミー人形を載せた自転車へ突入し、AEB(衝突被害安全ブレーキ)の作動及び、ポップアップの動作状況を確認するものでした。

    こちらの実験結果は、ポップアップの動作を確認し、作動状況をスローカメラで撮影。AEBの起動状態をチェックしました。結果は、想定通りの動作が行われていることを確認。歩行者に対する安全装置の効果を実感しました、

    ※こちらのデータはAEBの動作情報が細かく記されている為、割愛します。

    車体の進化とともに事故の調査も変化していく

    以上の実験が今回岡山で行った実験の概要と結果の簡易レポートです。今回の実験ではEDRに加えてGTS(トヨタの純正診断機)を用いて行いました。

    GTSによるデータの読み取り

    従来の事故検証では路面のタイヤ痕や、車体に残された傷をもとに損傷の大きさから、事故の状況までを推察していましたが、これからは、車体システムに残された情報も事故の原因を特定する重要な情報となっていくように感じます。

    また、この情報は事故のみならず、その車がこれまでに受けた衝撃の有無まで分かります。EDRを用いれば無事故車と謳いながら事故車両を販売するなど、車の不正販売も暴けるかもしれません。

    車を調べるツールは今後もますます進化していくことでしょう。

    今回の実験を実施して下さった主催企業、および協力企業の皆様

    一般社団法人 車載データった解析協会 CDRA

    BOSH 株式会社

    セーフティーワークス

    株式会社MGH

    合同会社nitro

    丸文株式会社

    株式会社ナックイメージテクノロジー

    DTS

    株式会社フォーサイトテクノ

    ENDEVCO

    ORME

    ドライビングアカデミー

    ダイナミックマッププラットフォーム株式会社

    EDRデータジャパン

    株式会社 特調

    株式会社テクノ・セイフティ

    株式会社 東海DC

    日本自動車車体補修協会 JARWA

    ※順不同